「保健所薬剤師の仕事内容や年収は?」
「保健所薬剤師になるには?」
薬剤師が活躍する場所は数多くありますが、その中でも保健所で働く薬剤師というものが存在します。
保健所薬剤師は、地方公務員として地域の人の健康と公衆衛生を管理する仕事です。
しかし、保健所薬剤師に転職したいと思ってもドラッグストアや調剤薬局のようにメジャーな場所ではないので、情報は極端に少ないのがネック。
そこで本記事では、保健所薬剤師の仕事内容や年収、なれるまでのプロセスの3つを詳しく解説していきましょう。
この記事で分かる内容は、以下の通りです。
この記事で分かること
- 保健所薬剤師の仕事内容
- 保健所薬剤師の年収
- 保健所薬剤師になるためには
- 保健所薬剤師のメリット・デメリット
- 保健所薬剤師に向いている人
保健所薬剤師の仕事内容

まずは、保健所薬剤師がどのような仕事をしているのかをみていきましょう。
以下では、保健所薬剤師の主な5つの仕事内容を解説しています。
薬事衛生:医薬品の販売店舗への許可・指導
薬事衛生は、調剤薬局やドラッグストアなどの店舗に対し、医薬品の販売許可や指導、監視を行う業務です。
これらの業務の目的は、医薬品・医療機器などの安全確保と有効性を確認するために行われています。
医療品のほかに健康食品、サプリメント、OTC薬品も対象です。
また、医薬品を安全に使用するための知識や注意喚起を地域住民に情報提供、大麻や覚醒剤などの違法薬物乱用を抑止する啓発活動なども行っています。
薬事衛生業務は、保健所薬剤師の中でメインとなる仕事であり、他の業種の薬剤師と関わる機会が多いのもこの業務です。
食品衛生:食に関する安全確保
食品衛生は、飲食店や食品製造会社への営業許可や立ち入り検査、指導・監視を行います。
食品が製造されてから消費者のもとに届くまでの工程に問題がないかや、食品に関する事故が起こった場合には状況把握と対応が主な仕事です。
また、食中毒予防のために食品の取り扱い、食品アレルギーなどの情報発信をしています。
水道衛生:水道水の品質管理
水道衛生は、地域住民に安心で安全な水道水を供給するために、水道供給施設の監視や指導を行います。
また、プールや銭湯、旅館などの公共施設の水質管理をするもの保健所薬剤師の仕事です。
水は、人々の生活に欠かせない重要なライフラインのため、維持や管理が欠かせません。
保健所薬剤師は化学的な観点から、水質の向上させるための役割を担っています。
試験検査:化学検査全般を担当
試験検査は、食品に含まれる放射能物質や食品添加物、細菌を検査する業務です。
食品のほかにも、腸チフスやコレラ、腸管出血性大腸菌O157などの集団感染症に関する検査も行います。
また、試験検査のデータ結果をもとにさまざまな資料を作成し、地域住民に情報発信するのも保健所薬剤師の仕事です。
これらの業務は、薬剤師の知識やスキルといった専門性が生かされる仕事だといえるでしょう。
生活衛生:公衆衛生の向上・管理
生活衛生は、地域住民の生活に関する場所を衛生的に保つための業務です。
例えば、多くの人が利用するホテルや温泉、飲食店、美容室、クリーニング店などの開業許可・監視・指導を行います。
生活に関わる公共施設においては、清潔に保たれているか、営業するための資格があるのかなどをチェック。
不特定多数の人が利用する場所の安全を確保しています。
生活衛生は、それぞれの施設において一定水準以上の衛生管理を行うことが求められているのです。
調剤業務はほとんどない
ここまでの保健所薬剤師の仕事内容を解説してきましたが、保健所では調剤業務が全くといっていいほどありません。
保健所薬剤師の主な業務は、施設や企業への許可・監視・指導です。
そのため、中途採用の場合ドラッグストアや調剤薬局での知識や経験は、活かせないことが多いでしょう。
ただ、薬剤師として採用されると他の地方公務員とは違うスキルを持っているので、責任ある仕事や薬品に関する業務に従事することができます。
そのためには、日頃から情報収集や勉強をしておくことが必要です。
保健所薬剤師の年収は360万円〜900万円

保健所薬剤師の年収は、約360万円〜900万円の間です。
平均年収にすると約630万円になります。
ちなみに、2020年の薬剤師全体の平均年収は、548.3万円( 平成30年 令和元年賃金構造基本統計調査より算出)です。
以下では、保健所薬剤師の詳しい年収事情についてみていきましょう。
年収の幅が広い
保健所薬剤師の年収は、約360万円〜900万円と幅が広いです。
その理由は、都道府県ごとに地方公務員の給与が開示されていて、等級ごとに昇給します。
以下は、神奈川県を例に等級ごとの年収をみていきましょう。
等級 | 年収 | 役職 | 平均年齢 |
1級 | 400万円〜540万円 | 主事・技師等 | 25.7歳 |
2級 | 480万円〜620万円 | 高度の知識経験を必要とする主事・技師等 | 31.5歳 |
3級 | 500万円〜680万円 | 主任主事・主任技師等 | 36.2歳 |
4級 | 580万円〜750万円 | 主査等 | 45.9歳 |
5級 | 700万円〜780万円 | 副主幹・副技幹等 | 49.3歳 |
6級 | 750万円〜820万円 | グループリーダー等 | 50.8歳 |
7級 | 820万円〜870万円 | 課長 | 53.5歳 |
8級 | 900万円 | 部長・参事 | 55.9歳 |
9級 | 950万円 | 局長・参事監 | 56.8歳 |
10級 | 1000万円 | 理事等 | 58.2歳 |
※神奈川県 「県職員の給与・職員数」を参考
このように、等級ごとに年収は上がっていきます。
薬剤師の場合は、部長・参事が一番上の役職になると予想されるので、年収900万円が最高値だと考えられるでしょう。
保健所薬剤師は勤続年数に応じて確実に昇給するので、長く勤めれば他の職種の薬剤師の年収を大きく上回ります。
また、地方公務員の年間賞与(ボーナス)は4.50ヶ月分や退職金に関しても手厚い補償がつくので、保健所薬剤師は非常に安定している職業だといえるでしょう。
初任給は約18万円前後
保健所薬剤師の初任給は、都道府県によって変わってきますが、約18万円前後が相場のようです。
以下の表は、地方公務員の平均初任給を学歴別にまとめています。
学歴 | 初任給 |
大卒 | 184,574円 |
短大卒 | 164,190円 |
高卒 | 150,627円 |
参考:平成30年地方公務員給与の実態 | 総務省
保健所薬剤師の初任給は、そこまで高くなくドラッグストアや調剤薬局の初任給は20万円を超えることも少なくないため、それに比べると低めに感じます。
しかし、先述の通り保健所薬剤師は勤務年数に応じて昇給するので、他の職種の薬剤師の昇給が伸び悩む中でも保健所の薬剤師は確実に年収が上がっていくでしょう。
結果として、保健所で働く薬剤師の給与が高くなる傾向にあるようです。
勤続年数が年収に大きく影響する
保健所薬剤師の年収は、はじめはそこまで高年収ではありません。
初任給も18万円前後と他の業種に比べると、かなり低い部類に入ります。
しかし、保健所は行政機関なので景気や経済状況に左右される民間企業とは違い、昇給は順調に上がっていくのです。
また、退職金や有給休暇、その他手当てに関しても民間企業より手厚く、生涯賃金で考えると保健所薬剤師は他の職種の薬剤師よりも高くなるといえるでしょう。
保健所薬剤師になるには

保健所の薬剤師になるには、自治体によって募集条件は異なりますが、非常に倍率が高く狭き門のところが多いようです。
この項目では、保健所薬剤師になるためのプロセスについて解説していきましょう。
求人を探す
まずは、保健所薬剤師になるために求人を探します。
保健所薬剤師は、各都道府県、政令指定都市、中核市、特例市、保健所指定都市、特別区にごとに設置されており、募集は各自治体のホームページや広報に掲載されていることが多いです。
募集要項は、自治体によって異なるので事前に把握してから応募するようにしましょう。
詳しい、募集要項や不明な点がある場合には直接、自治体に問い合わせることをおすすめします。
公務員採用試験に合格する
保健所薬剤師になるためには、以下のいずれかの採用試験への合格が必須です。
- 地方上級公務員試験
- 社会人経験者(民間企業等職務経験者)採用試験
地方上級公務員試験とは、大学卒業者を対象とした地方公務員試験のことを指します。
名称は各自治体で異なり、上級職、Ⅰ類、Ⅰ種、大卒程度などさまざまです。
試験内容は、筆記試験の一次試験と面接や集団討論などの二次試験があります。
受験資格の年齢上限は、27歳〜39歳までと各自治体ごとに異なるので、事前に確認が必要です。
次に、社会人経験者向けの地方公務員試験は、かつて大規模な自治体のみ採用されていた試験でしたが、令和元年度は全都道府県政令市の80%以上の自治体で実施。
年齢上限も以前は30代から40代までの自治体がほとんどでしたが、緩和され59歳まで受験可能な自治体が増えています。
また、職務経験年数(5年以上など)を条件にしているところもあるようです。
上記2つの試験は、各自治体により募集要項や年齢上限が異なるので、事前に確認して応募するようにしましょう。
採用後は必ず保健所に配属されるとは限らない
地方公務員試験に合格したからといって、必ず保健所薬剤師になれるとは限りません。
保健所はあくまで行政機関の一部であり、保健所の他にも薬務課や衛生検査施設などがあります。
はじめから保健所薬剤師としての募集であれば問題ありませんが、どの部署に配属になるかは辞令次第です。
また、地方公務員は定期的に異動があるため、保健所薬剤師として採用されても数年後には、別の配属先になる可能性があります。
そのため、採用されても必ず希望通りには、保健所に勤務できないことを覚悟しておきましょう。
保健所薬剤師のメリット

実際に保健所で働くとどのようなメリットがあるでしょうか?
以下では、保健所薬剤師の4つのメリットについて解説しています。
安定感があり景気に左右されない
一つ目は給与が安定して支給されるため、景気に左右されないという点です。
ドラッグストアや調剤薬局の民間企業に就職すると、業績の悪化での減給や倒産した場合、解雇される恐れがあります。
その点、保健所薬剤師は公務員なので倒産することはまずあり得ないでしょう。
また、昇給やボーナスも安定しています。
このように、保健所薬剤師は長く安心して働ける職種です。
残業が少ない
保健所の仕事は、基本的に他の職種に比べて残業が少ない傾向にあります。
ドラッグストアや病院の薬剤師は、夜勤やシフト制のため不規則な勤務時間になりがちです。
一方で、保健所薬剤師は日勤のみで、残業もイレギュラーな仕事が舞い込んでこない限りほぼありません。
また、土日祝日も基本的に保健所は休みなので、休日日数も120日以上はあるでしょう。
このように、保健所の薬剤師はプライベートを重視したい薬剤師にぴったりです。
福利厚生がしっかりしている
保健所薬剤師は収入が安定しているだけでなく、福利厚生も充実しています。
地方公務員の手当は、26種類もあり全ての手当がつくわけではありませんが、一般企業に比べて手当の多さは歴然です。
また、有給休暇や特別休暇もきちんと消化することができます。
さらに民間企業の育児休暇は、最長で1年程度のところが多いですが、公務員の場合は最長3年の育児休暇の取得が可能です。
このように、保健所薬剤師は福利厚生が充実していることが魅力だといえるでしょう。
地域の衛生管理にやりがいを感じる
薬剤師の業務は、調剤業務などで患者の健康に貢献することが求められますが、保健所薬剤師の場合は地域全体の衛生管理が主な仕事です。
そのため、通常の薬剤師業務とは異なり地域の幅広い業務を経験していくことで、やりがいを感じられるでしょう。
また、保健所では薬剤師以外の職員も多く働いているため、薬学以外のさまざまな知見も得られます。
地域の衛生管理に貢献していくことで、他の業種の薬剤師とはまた違ったやりがいを感じられるのです。
保健所薬剤師のデメリット

ここまで、保健所薬剤師のメリットを解説してきましたが、デメリットとなるものもあります。
以下では、保健所薬剤師の3つのデメリットについて解説していきます。
異動・転勤の可能性
公務員の宿命的な異動・転勤の可能性は薬剤師も例外ではありません。
地方公務員は国家公務員のように全国転勤はありませんが、都道府県内での異動は確実にあるでしょう。
そもそも、公務員試験に合格しても保健所に配属されない場合もあります。
そして、運よく保健所で働けたとしても、定期的な辞令により別の部署に配属される可能性があるのです。
また、仕事内容も異動になれば当然変わるので、一から仕事を覚えなくてはなりません。
このように、保健所薬剤師には環境の変化に柔軟に対応できる人材が求められます。
調剤業務に携われない
保健所薬剤師の仕事は、許可や監視、指導が主な業務になるので調剤業務はほぼありません。
そのため、薬剤師としては医療現場から遠のいてしまうというデメリットがあります。
また、薬学の知識や経験が保健所ではそこまで求められるわけではないので、薬剤師としての経験が活かしきれない場面も出てくるでしょう。
このように保健所薬剤師は、調剤業務がないため薬剤師らしい仕事をしたい人にとっては向かない仕事かもしれません。
初任給が低い
保健所薬剤師の初任給は、18万円前後であることが多く、一般の薬剤師の初任給は20万円を超えることを考えるとデメリットだといえるでしょう。
ただ、公務員の給与の低さが目立つのは、はじめのうちだけであとは順調に昇給していくのが特徴です。
一般企業の薬剤師の年収が頭打ちになったとしても、保健所薬剤師の年収は上がり続けます。
また、中途採用で一定のスキルや経験がある場合は、能力に応じで給料が決定されるでしょう。
保健所薬剤師は、退職金や賞与も公務員の方が充実しているので、初任給が低くても勤務年数が長ければ企業薬剤師の給与を超えてくるのです。
保健所薬剤師に向いている人

ここまでのメリットデメリットを踏まえた上で、保健所で働くことが向いている薬剤師をまとめると以下の3つです。
保健所薬剤師に向いている人
- 安定した収入と充実した福利厚生を求める人
- 幅広い業務に従事できる人
- 地域住民の衛生環境や健康に貢献したい人
一つの組織で安定的に働き続けたい薬剤師にとって、保健所はおすすめの転職先です。
また、保健所薬剤師は住民が安心して生活できるような環境作りに携われる責任ある仕事です。
そして、薬事衛生や食品衛生を通して人々の健康を守る幅広い役割を担っています。
そのため、責任感の強い人や薬剤師として地域に何ができるのかを積極的に考えられる人が、向いているといえるでしょう。
まとめ:保健所薬剤師は地域社会貢献できる

ここまで、保健所薬剤師の仕事内容や年収などを解説してきました。
まとめ
- 保健所薬剤師の仕事内容は幅広い
- 保健所薬剤師の年収は約360万円〜900万円(平均年収は約630万円)
- 保健所薬剤師になるには公務員試験の合格が必須
保健所の薬剤師はさまざまな業務を通して、地域住民に貢献できるやりがいのある仕事です。
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